卵巣嚢腫は、卵巣にできる液体や血液を含んだ腫瘤で、多くは良性ですが、大きくなると下腹部の圧迫感や痛みの原因となることがあります。
排卵に関係した生理的な嚢腫(機能性嚢胞)は自然に消失することもありますが、チョコレート嚢胞(子宮内膜症由来)や皮様嚢腫などは長期的な経過観察が必要です。
卵巣はお腹の奥にあるため、悪性の卵巣癌も含め、初期には症状が出にくいことが多く、定期的な検査での早期発見が重要です。
主な症状
卵巣嚢腫や卵巣癌は、初期の段階ではほとんど症状がないことが多く、「沈黙の臓器」とも呼ばれています。
症状が現れる場合には以下のようなものがあります。
- 下腹部の張り感や違和感
- 腹部の膨満感
- 頻尿や便秘(腫瘤による圧迫)
- 月経不順や不正出血
- 急な腹痛(茎捻転が起きた場合)
嚢腫が大きくなると、卵巣がねじれて(茎捻転)強い腹痛を起こすことがあります。また、悪性腫瘍の場合は、進行すると腹水や腰痛、体重減少などが見られることもあります。
卵巣嚢腫にはいくつかの種類があり、それぞれ性質や発生しやすい年代が異なります。
種類 | 特徴・内容 | よく見られる年代 |
---|---|---|
機能性嚢胞 | 排卵の過程で自然にできる一時的な嚢胞。通常は自然に消失。 | 若年女性(思春期〜30代) |
チョコレート嚢胞 | 子宮内膜症の一種。卵巣内に古い血液がたまりチョコのように見える。 | 20代後半〜40代 |
皮様嚢腫 | 歯・毛・脂肪などの成分を含む良性腫瘍。発育は遅い。 | 10代〜30代 |
漿液性嚢腫 | 水のような液体がたまった嚢胞。基本的に良性だが、まれに悪性もあり。 | 幅広い年代 |
粘液性嚢腫 | 粘り気のある液体がたまる。サイズが大きくなる傾向がある。 | 30代〜50代 |
診断方法
診断を進める上で、良性の嚢腫なのか、悪性(卵巣癌)が疑われる状態なのかを見極めることが重要です。以下に、良性と悪性の特徴の違いを整理した比較表を掲載します。
比較項目 | 良性卵巣嚢腫 | 卵巣癌(悪性腫瘍) |
---|---|---|
発症の頻度 | 非常に多い(ほとんどが良性) | 比較的少ない |
進行スピード | ゆっくり/自然に小さくなることも | 比較的早い |
自覚症状 | 無症状が多い | 腹部膨満感・体重減少・腹水など |
超音波所見 | 内容が均一・境界が明瞭な場合が多い | 内容が混在・不整な形・固形部を含むことあり |
腫瘍マーカー | 正常〜やや上昇することもある | 高値を示すことが多い(CA125など) |
治療方針 | 経過観察または摘出 | 早期発見後、手術・化学療法などを検討 |
問診・診察
月経の状況や腹部の違和感、下腹部痛の有無などを丁寧にお伺いし、必要に応じて内診を行います。
内診では、腫瘤の存在や大きさ、圧痛の有無などを確認します。
経腟超音波検査
膣内に細いプローブを挿入し、卵巣の大きさや腫瘤の性状を観察します。
液体が溜まった「単純嚢胞」か、血液や固形成分を含む「複雑性嚢腫」かを見分けることで、良性か悪性かのおおよその判断が可能になります。
腫瘍マーカー検査(CA125など)
血液検査で、卵巣癌に関連する腫瘍マーカー(CA125、HE4など)を測定することがあります。
特に閉経後の女性や、複雑な嚢腫がある場合に行われ、悪性の可能性があるかどうかの目安となります。ただし、マーカーは良性疾患でも上昇することがあるため、他の検査と組み合わせて総合的に判断します。
MRI・CTなどの画像検査
腫瘍の内部構造や周囲の臓器との関係、がんの広がりを詳しく調べるために、MRIやCTなどの画像検査を行うことがあります。
特に悪性が疑われる場合には、転移の有無を確認する目的でも使用されます。
当クリニックでの治療方針
川越レディースクリニックでは、経腟超音波検査を中心に、卵巣の状態や腫瘤の大きさ・性状を丁寧に評価します。
良性と考えられる嚢腫に関しては、定期的な経過観察を行い、自然に消退する場合もあります。
悪性の可能性が否定できない場合や、サイズが大きい、症状が強い場合には、必要に応じて腫瘍マーカーやMRI検査を提案し、連携する専門医療機関へのご紹介も含めて迅速に対応いたします。
下腹部の違和感や周期に関係しない腹痛がある場合は、早めの受診をおすすめします。卵巣疾患は早期発見・早期対応が何よりも大切です。